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最愛 [真保祐一]

最愛

最愛

  • 作者: 真保 裕一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/01/19
  • メディア: 単行本

久々の真保さんの作品です。
ここで真保さんの作品のレビューを書くのは
初めてのことなので、少なくても一年以上は
時間が空いているのですが、以前と比べて
作風が少し違っているのに、ちょっと驚きました。
こうした作品を描くのかと。
小説をジャンル分けするのに、大した意味は持ちませんが
恋愛小説としても読めますし、ミステリーとも
言えるかもしれません。
結末の衝撃的な事を考えればミステリーなのかなとも
思いますが、そこに到るまでの登場人物の描写はしっかりと
描かれていて、単純に棲み分けが出来ないという感じです。
主人公の悟郎は小児科に派遣されている医師。
かつて愛した女性との間に出来た子供を救うことが出来なかった
事を胸の中心に置き、それを償うために医師になる事を決意した
過去があった。
小児科医に訪れる患者には優しい医者だが、その親に対しては
厳しい態度で接する悟郎。
子供に対する愛情に欠けた親たちに対する悟郎の気持ちの表れでも
あるのだが、そこにはそれとは別の感情が含まれていた。
悟郎には最愛の姉が居る。幼い頃に両親をなくし、養父母に育てられ
たのだが、姉だけはその環境になじめずに、家を飛び出していた。
それから18年。二人は連絡という連絡を取らずに過ごしてきたのだが、
ある日、姉が病院へ運びこまれたという連絡があり病院に駆けつけると
姉は生死の境を彷徨う重体だった。
なぜ、こんな事に。姉は事件に巻き込まれていたのだが、なぜそんな
事になったのか。医師である悟郎には彼女の生がどれほどのものなのか
は、はっきりとしていた。
たった一人の肉親である姉。18年にもなる空白の時間を断ちきるように
悟郎は何があったのかを探り始める。
その過程でいろんな事を知っていくのだが、姉は事件の前日に婚姻届を
だしていた。結婚していたのだ。しかし新郎は事件があってから一度も
病院に駆けつけない。しかも新郎はかつて一度は結婚したが、その時の
妻を殺害した殺人犯であった。
離れて過ごした18年の間に姉はどんな人生を送っていたのか。
自分の信念に基づいて生きる姉。そのためには相手が誰であれ、戦う
姿勢を崩さなかった姉。過去を探る中でも度々浮いてくる姉の戦う姿。
そして、殺人を犯した男を夫とした理由も、なぜこのような事件に巻き
こまれてしまったのかも次第に明らかになっていく。
そこには、信念に基づく強い行動力がありながらも、過去に犯してしまった
罪を背負っている事が殺人を犯した男を夫とする理由があった。
罪を犯した者だけが抱く苦しみを姉が感じ取ったからだった。
傷を舐めあうような愛。罪を犯してしまった者同士だからこそ分かり合える
痛みや苦しみを分かつような。
殺人を犯してしまった夫は、再び罪を犯してしまう。
それは自ら計画したものではなく、結果として犯罪者に仕立て上げられたような。
その罪を少しでも軽くする為に奔走し、その罪を隠蔽しようとする奴らのところ
に、単身乗り込んでいく。
罪を背負い、罪を犯してしまった愛する者のために奔走し戦っていた姉。
そして傷つき生死の境を彷徨うことになってしまった姉。
そしてそんな風にしか生きられなかった、人を愛することが出来なかったのは
過去に犯した罪にあったのだが、それは悟郎との共犯でもあった。
人を愛する形は様々であり、この物語に描かれている形もまた愛の一つの形。
ラストで、その真実が明かされるのだが、これを読者がどう受け止めるのかは
賛否両論となるのだろう。
罪を犯した者。殺人を犯した者を愛する人として受け入れられるか。
自分の犯してしまった罪にどうやって折り合いをつけて生きていくのか。
社会的に事件とならなかったにせよ、人の道に外れてしまったことに対して
どうやって折り合いをつけて、けじめをつけて生きていくのか。
罪は人が生きていくなかで身近に転がっていて、決して自分だけは道は外さない
と思っていても、道を外してしまうのが人なのだろう。
一瞬の思いが、一瞬の過ちが永遠となって人の一生を縛り左右していく。
姉と共に犯してしまった罪を抱えて小児科医となった悟郎。
弟と共に犯してしまった罪を抱えて人を愛し傷ついた姉。
二人が今ある姿、置かれている現状は嘗ての罪が決めていたのかもしれない。
結末を迎え真実を突きつけられたとき、物語の導入部での院内での会話が
なんとも切ないものに思えてくる。
このラストを読むと、もう一度物語りを読み直してみたくなってくる。
過去に何があったかを知った上で読み返す物語は、初めて読むときよりも
胸に響くもものが変わったものになってくるような気がする。
物語という形では特別な状況を設定しているが人が生きていくなかで、
道を踏み外してしまうことは、決して特別な事ではないであろう。
事の大小を別とすれば。そうしたことを踏まえてみれば、身近な事だとして
受け入れることも出来る物語なのではないだろうか。
もちろん、こうして書いている自分自身も含めて。

 


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奪取 芸術的な側面に魅せられて [真保祐一]

紙幣。技術の粋を集めた、ある意味では
芸術であったりする。
何回かテレビでも、その技術に関して
放映されており、視聴した方もいると
思われるが、この一枚の紙幣の中に凝縮
されている技術を小説にしたものがある。
 紙幣は、国家のみ発行するものであり、
偽造とは国家に対する挑戦であったり
する訳だが、物語の中では、紙幣の偽造が
主軸になっている。
 偽造コインを使って、自販機荒らしを
していた男が、金に困り紙幣を偽造しだす
所から話が転がって行く。
 やがて、やくざに追われる身となりながらも
この男と同じように、偽造に人生をかけた
彫師と出会い、より本格的な偽造へと入り込んで行く。
 それと同時に、紙幣を構成する要素が
ふんだんに盛り込まれ、読者を物語の中へ
引き込まれていく。
 これを書くにあたっては、取材に多くの時間を
費やし、形にしていくには、大きな苦労が
あったであろう事は、想像に難くない。
 本書が世にデビューしたのは、最近ではなく
モデルとした紙幣も、旧の壱万円紙幣なのだが、
それでも紙幣を手にしながら、ページを捲りたくなる。
 紙幣に関連した情報としては、普段なかなか知りえない
内容も含まれており、文庫で上下巻の構成と
なっているが、ページのボリュームを感じさせない。
 すでに読まれた方もいると思うが、本書の存在を
ここで知った方で、興味のある方には、手にとって
みては如何でしょうか。

タイトル 「奪取」
著者   真保祐一


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