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四度目の氷河期 [荻原浩]

四度目の氷河期

四度目の氷河期

  • 作者: 荻原 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/09/28
  • メディア: 単行本

17歳の少年がこれまで生きて来た自分の人生を
回想する物語。
ワタルは母一人、子一人の母子家庭。
父親と母は結婚する事なく、母はいわゆるシングルマザー。
しかもワタルの髪は茶髪からさらに色を抜いたような
色をしており、瞳は茶色。
父を知らないワタルは、そんな容姿からも自分の出生
を知ろうとする。いったい自分は何者なんだろうと。
母親は以前シベリアで何かの研究をしていたらしい。
そして今も難しい研究をして、ワタルを育ててくれている。
家にも沢山の専門書があるのだが、その中にある記事から
自分は古代クロマニヨン人の直接のDNAを持つかもしれない
と頭をよぎる。今自分の置かれている環境、自分の容姿、
そして母親がシベリアに留学していたという材料をあつめて
くると、自分は古代人アイスマンのDNAを受けてこの世に
生を受けた、いわゆる実験から産まれたのではないかと。
それは瞬く間にワタルの胸の中に深く濃い色となって染み
渡っていった。
しかし、それは母親に確かめることも出来ずに自分の胸の中
にだけしまっておくことにした。
そんなワタルだが容姿の違いやシングルマザーで、孤独な少年
時代を過ごすことになるが、この頃転校してきた女の子と
仲良くなる。自分と似た境遇を持つ子に親近感を覚えて。
この女の子との関わりを強めながら、母と共に生きるワタル。
容姿は外国人のようで特別な感じを受けるのだが、その実は
とても純粋な少年。純であるが故に彼の成長する姿は切なく
もある。またワタルのためにひたむきに生きる母親の姿も
これまた切ない。そしてこの切なさは強烈に胸に刺さるように
飛んでくるものではなく、じわりじわりと読みながら少しずつ
胸に染みを広げていく。
ワタルは自分が思うほど特別ではないのだが、その容姿、出生の
秘密から特別だと思い続けていたのだが、高校生になった頃には
自分が決して特別ではないんだと気付く。幼かった頃、小学生
の頃は人よりも体の発育の早く力も強かった。早い時期に母親の
身長を追い越し、その身体を見るクラスメートは彼とは少し距離を
おいてその姿を見つめていた。そんな周囲の視線が彼が古代アイスマン
の子孫だと思い込ませてもいたのだが、高校生になった頃には
自分はそれほど特別でもなく、身体的能力に関してももっと先を
行く人がいる事を身をもって知ることになる。
しかし、幼少から抱いてきた疑問。自分の父親はどこの誰なのか。
その答えを求めて7000キロ離れたシベリアの地を訪れるのだが、
そこで得た答えは彼を自立させ、これから先歩むべき道を見つけさせる。
このラストに作者のこの物語に込めた想いがワタルを通して語られる。
どこから来ていったい何者なのかなど些細な事でしかない。
与えられた自分の人生は自分のものであってどこへ進んでいくのかは
自分自身が決めることであり、他人に任せても、他人のせいにしても
いけない。
自分を見失うことなく前を見て行くがいい。
少しだけ容姿が違い、出生への疑問を抱えてきた少年。その成長の過程
での彼は少年らしい純粋な視線で描かれている。大人になってしまえば
忘れてしまうあの頃の自分を記憶の底から引き上げてきてくれる。ワタルの
姿にそれを重ね合わせていくと、じんわりと胸の中に切なさが広がっていく。
そしてその切なさを下地に、希望と勇気を最後にしっかりと読者に与えて
ほんのりと胸を暖かくしてくれる荻原さんらしさはこの物語にもしっかりと
刷り込まれています。

 


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サニーサイドエッグ [荻原浩]

サニーサイドエッグ (創元クライム・クラブ)

サニーサイドエッグ (創元クライム・クラブ)

  • 作者: 荻原 浩
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 単行本

ハードボイルドエッグ」の続編にあたる「サニーサイドエッグ」
前作にも負けず劣らずユーモアたっぷりの作品です。
主人公最上俊平は町の私立探偵。失踪、殺人事件、誘拐事件を追いかける
腕利きで、フィリップマーロウばりのハードボイルド探偵と行き
たいところだが、実際の仕事は失踪は失踪でもペットの失踪。
失踪したペットを無事に飼い主のもとへ届けるのが仕事の殆ど。
確かにフィリップマーロウにあこがれてはいるものの、その実は
まるで違う現実。日々家の縁の下、車の下、公園や雑木林の中を
這い回り、スーツにくもの巣、頭に枯葉をつけている。
決して、ペットの捜索が仕事として些細なものだとは言わないが
探偵という肩書きにしては少しばかり寂しい。
ましてやハードボイルドにあこがれる探偵としては。
そんな主人公の設定であり、文章としては皮肉めいたジョークや
比喩と多様した言い回しが多様されており、ハードボイルドっぽく
はなっているぶんだけ、最上の行動とのギャップに読みながらも
顔が緩んでしまう。滑稽でさえあるほどに。
だが、ユーモアたっぷりで笑うだけで終われる物語になっていない
ところに魅力がある。
フィリップマーロウにあこがれる最上の滑稽さの落差のように
ユーモアが溢れる文章の中に、その行間に人生の哀愁が滲んで
いてその対比がいいです。
「ハードボイルドエッグ」では秘書としてやとった、腰をくの字
に曲げた老婆がパートナーであったが、今回は金髪に青い目を持つ
若い女性がパートナー。これがまた最上のキャラに絡んで物語を
より楽しいものにしてくれている。
展開としては、猫の捜索を依頼される最上に、パートナーとして
ひとりの女性を雇って欲しいと依頼される。ブロンドで青い目を
してはいるものの、正真正銘の日本人。歳は16歳。学校で問題を
おこして今は通ってもいない。今回のパートナーに期待をしていた
最上にとっては再び、雲行きの怪しいことになってきたのだが、
成り行き上断ることも出来ずに共に猫の捜索を開始する。
ペット探しではそれなりに実績をあげてはいるが、何かと住民や
警察とは折り合いが悪い。そんなところを、当初期待の薄かった
パートナーに救われたりし、少しずつ見方を変えていく。
だが、なかなか進展しない捜索の中で新たに、ペットの捜索の依頼を
強引に受けさせられてします。同時に二つのペットの捜索を開始
するのだが、それは意外な展開へと流れていく。
やがてペットを見つけ出し、捕獲に成功するのだが、やくざに
追われる羽目になってします最上。
お世辞にも危機に面した時に頼れる男ではないものの、そこは
ハードボイルドを身上としている探偵、行きがかり上必死のトラブル
解決を図る。やくざとの派手なカーチェイスがあり、正面きっての
対峙をあり。そこで見せる最上の姿には哀愁もあり、大人の男の
横顔を見せてくれる。
「男は強くなければ生きていけない、しかし優しくなければ生きる
資格はない」
そんな雰囲気を感じさせてくれる。
物語の中でところどころに埋め込まれた印象的な言葉が控えめな
がら輝きを放っています。
ペット探しの仕事を解決し、また新たな仕事の依頼を待つ日常へ
もどる最上だが、今回の仕事を終えて心情を描写している場面

ただ今日をいきていくだけ。未来を恐れなければ、毎日はそう不幸
せなものではない。

仕事の度に理不尽なトラブルに巻き込まれてきた最上。
それでも明日に失望をしていない芯の強さが魅力的です。
明日がどんな日であるのかも判らないのに、ネガティブな事柄に
捉われてばかりいたら、日々は灰色に染まってしまう。
人生悪いことばかりじゃない。そんなほっと出来る暖かな勇気を
与えてもらったような気がします。
荻原さんの作品は、こうした温度がどの作品にもあるような気がします。
サニーサイド 日の当る側、ひだまり、日向。
タイトルに冠したこの言葉にもそれが集約されているようなきがします。


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メリーゴーランド [荻原浩]

 

主人公、啓一は市役所に勤める公務員。
以前は民間の電機メーカーに勤めていたのだが
過酷な労働状況に疑問を感じて数年前に
Uターンをし、役所勤めに転身していた。
役所勤めは暇を持て余し、民間とは真逆の理屈が
当たり前のように蔓延る様を肌で感じていた。
そんな彼はある日、赤字続きの倒れかけのテーマパーク
の再建を任される。
このテーマパークの再建に際していろんなキャラが
登場するのだが、このキャラがとても愉快で良い。
主人公を中心として話は始まるのだが、なんだか
主人公はステージの上のMCのようで、周りの登場人物
たちによって、話が展開していくような印象を抱くほど。
再建の道は険しく、役所の中での様々な障害、妨害工作
にあい、決して愉快な話ではないのだが、気分は意外にも
沈んでいかない。
哀しくもある話の展開にも、脇を固める個性的なキャラが
それを和らげて、笑いさえも届けてくれる。
 主人公啓一のテーマパーク再建の道は険しく厳しくも
あるが、日頃の自分とついつい比べてしまい、うらやましく
も感じたりしてしまう。
一見、八方塞のような状況でもそれを打開出来る、人脈が
用意されていて、気がつけば事が上手く運んでいたりする。
また、啓一は役所務めで、その世界はまるで不思議の国のアリス
並なのだが、自分を取り巻く環境もそれと大差ない事を
思うとなんだか、気分が沈みがちにもなってしまう。
さすがに現実は、物語のように上手くはいかないようで。
物語全体として、主人公は不幸というか、不運の連続だったり
するのだが、読者には重苦しさを感じさせないどころか
読後には爽やかささえも残してくれるあたりは、作家さんの
力量なのだろう。読みやすさも手伝って楽しくよめる作品。
著者の過去の作品の中で、「神様からの一言」があるがタイプと
してはこれに似ており、すでに読まれた方には雰囲気が伝わる
のではないでしょうか。
啓一の苦労と奮闘は明日の自分のものかもしれない。

 


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