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狼の血 [本]


狼の血 (カッパ・ノベルス)

狼の血 (カッパ・ノベルス)

  • 作者: 鳴海 章
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1999/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


サラリーマンである甲介は毎日退屈な日々を送っていた。
無駄を生産し続けるような仕事をこなし、毎日僅かな金で
食を繋いでいるだけの生活。
そんなある日、中学生の時の同級生が突然彼の家を訪れた。
いわゆる不良と言われていた男でどうやら地元のやくざに
なったようだ。
その男が荷物を預けて翌日から姿を消した。
荷物を預ける時に大きな仕事をする為の道具だと言い残して
いた事から、それが危ない道具である事をうすうす感じて
いた甲介。
やがて同級生が死体となって発見される。
暴力団同士の抗争か、ヒットマンとして出向いた先で殺されたか、
いずれにしても、極道に殺されたと判断した甲介。
手元にあるものを警察に届けて、身軽になろうとしたが、
タイミングを外して届けられず、街をふらついた時、甲介を
クスリでいかれた若い男が襲う。自分はこのまま蹴り殺される
のではと、恐怖を感じたとき、バックの中の拳銃で相手の
一人を撃ち殺してしまう。そしてそれを目の当りにしたもう一人の
男も撃ち殺そうとするのだが、どうしても引き金が引けずに顔を
蹴り飛ばしてその場から命からがら逃げ出した。
しかし人を殺してしまった罪悪感、絶望感に打ちひしがれてしまう。
いつ逮捕されるかと思いながら、日々を送る。
これまでの生活リズムを変えずに淡々と。
そのうち、人を殺めた感触が日々の単調なリズムの中で少しずつ
甲介の血の中に溶け込み、自分の血として違和感を無くしていく。
そして、日々の生活の中で少しずつ蓄積された鬱憤と怨念を晴らし
ていきながら、破滅へ進んで行くという内容。
 日頃から組織に属して日常を積み重ねていくと、少しずつ
負のエネルギーを自分でも気付かないうちに溜め込んでしまって
いると、ふと感じる時がある。全てを吐き出してスッキリとして
しまいたいと思う時もあるが、多くの人はそのはけ口を酒で
あったり、恋人と共有する時間であったり、友と過ごす時間で
あったり、車やバイクに求めてたりするのだが、その術すら持つ
事も無く、又持ちたくても持てない状況だったりした時、膨らむ
だけの負のエネルギーが描き出す未来はと思うとぞっとする。
 物語の中で、甲介は些細な理由で次々と人を殺めていくのだが
結局は、自分の意にそぐわない人を、その端から殺めていっている。
人は何万年という年月を重ねてきて社会という、人と人との関係
を築き上げてきた。人と人が社会という中で、自分以外の価値観
を持つ者の存在を認めないとした時、社会というコミュニティは
崩壊してしまうんだろう。そういう意味では、甲介はある意味
人が多くの血の上に築いてきた壮大なる歴史、努力にたいする
謀反であるとも言えるのだろうか。
そう感じると、決して甲介のようであってはならないと強く思う。
 しかし、この物語では組織に勤める者の日常が甲介という
主人公を通してよく描写されているなと感じる。例えば、物語
では毎朝、決まった立ち食い蕎麦屋で同じものを食べるのだが、
そこでの描写では自分でも同じような印象をもった。
誰もが同じようなスーツを着て、隣にいる人の事に構うことも
気に留めることもなく、黙々と頭を垂れてどんぶりに向き合う様
は養鶏場で卵を産むために飼われて、餌を啄ばむ為だけに首より
上だけ動かす事を許され、ひたすら首を動かす鶏のようだと描写
しているが、会社の中で食事をする人々も同じようなもので
同じ色の服を着て、外部の業者から入れてる選択の余地すら無い、
硬質なプラスチックに入れられた給食を、列をなしたテーブルに
座って、頭を垂れて食している姿を目にした時には、まるで家畜
のようだと思った事があったことを思い出させられた。
そんな姿を見ながらそこに居て同じく食事をしている自分も同じ
だと。
きっかけがあれば、人が簡単に崩れてしまう。
そして、崩壊の歯止めを持たない者にとっては、それはどこまで
でも、行き着くところまで行ってしまう。
それは決して特別な環境に置かれたものでなくとも。
そう、サラリーマンであっても。
そんな姿を描いた物語です。
それにしても、小説も読むタイミングというのがありますね。
この小説も、今時の事件の前では、異質的な要素というのは
掠れてしまっている気がします。
犯罪の動機に理解が出来ていた時代であれば、この小説のもつ
インパクトはもっともっと大きかったような気がします。


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コメント 4

Sho

「淡々と日常を過ごす」「淡々と」ということに、ずっと深い興味をいだいております。
淡々と日々をすごすというのは、実はすごいことだったり、何か大きな力になるのじゃないかな?とも思います。
組織に属しているうちに負のエネルギーが蓄積されていく、というのは同感です。
人間の体の中には、とても凶暴な血が皆流れているのかもしれませんね。
by Sho (2008-12-05 15:58) 

yuka

私の負のはけ口はなんだろうなー。
数ヶ月に1度は行くカラオケ。
美味しい物をお腹一杯食べる。
読書。
友人や家族との馬鹿話。
ガスレンジをピッカピカに磨き上げる。

・・・・(笑´ω`)
ある意味平和な人間だ。

by yuka (2008-12-08 15:09) 

joker

Shoさん

そうですね、今のご時世で淡々とっていうのは簡単そうで実は結構
難しい事なのかもしれませんね、冷静に考えてみると。
最近は人って本当に幅が広いって感じます。
神のような人もいれば、残酷、酷薄な人も多いですし。
ただ、他人事のように書いてますが自分自身も、もしかしたら
凶暴な人間に変貌してしまうのかもしれない、状況によってはと
感じない事もないんです。
それだけ淡々と自分では過ごしているつもりの日常の中で、負を蓄積し続けていますから。

by joker (2008-12-10 00:45) 

joker

yukaさん

いいです、いいです、そういうのがいいんです。
特別じゃなくて日常の中のささやかな事で
負を解消していくのが。

by joker (2008-12-10 00:47) 

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