So-net無料ブログ作成

隠蔽捜査 [本]


隠蔽捜査 (新潮文庫 こ 42-3)

隠蔽捜査 (新潮文庫 こ 42-3)

  • 作者: 今野 敏
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/01/29
  • メディア: 文庫



警察庁の総務課の課長を務める竜崎。
キャリアであることに特別の意味があるという信念を
持ち続けている反面、出世の階段を上った先には、天下り
先での良い待遇が待っている事を期待しているあたりから
周囲の人間からは変人との声がある変り種。
所轄の警官や刑事にしてみたら雲の上のような存在
だが、ある連続殺人事件に絡み、現場および上司達との
間で自らの信念を貫き通そうとする。
一方、一個人に戻る家庭では二人の子供を持つ父親であるが
家庭の事はすべて妻に任せきりの状態。
連続殺人事件の捜査が怪しい雲行きの状態にあるなか、息子
である邦彦がヘロインを吸引している現場を見つけてしまう。
予想をもしていなかった事態に動揺する竜崎。
官僚である自分の家族が法に抵触する行為をしたとなると
自分に今の地位も危うくなる。この危機を乗り越えるには
どうすれば良いか悩む。
日頃から変人と周囲に呼ばれているが故、個人的な事を相談
出来る者は皆無。またそうした弱さを見せる事を最も嫌う
タイプである。
同時進行する二つの、社会的に見れば大きさのかなり違う
事件の渦中で、公である警察官僚としての姿と一個人である
父親としての間で揺れる、両極の感情の振幅を描いた作品。
変人と呼ばれている竜崎であるが、それはキャリアに対する
彼の信念から来るものであり、他の官僚からはなかなか理解
が出来ないというか、それは理想であり現実にその姿勢を
貫き通すことなど出来ないという事であろう。
建前と現実を使い分けろという声を浴びるが、原則に従う
までだと撥ね付ける竜崎。読み始めてからしばらくの間は、
恐ろしく堅物で隙がなく、融通の利かない男だという印象を
受けるのだが、竜崎の骨格をなしている信条は決してそれだけ
では無いことが次第に伝わってくる。
連続殺人事件で現場を担当するのは竜崎と小学生時代に同じクラス
だった伊丹。竜崎は当時伊丹らのグループからいじめを受け、
勉強だけは決して負けないという意地を支えとしていた。
警察に入ってからも事あるごとに、周囲からは幼馴染を出されて
嫌な気分だったのだが、今回の事件では仕事上から再び伊丹と
会う機会が多くなった。
今回の事件が警察の威信を揺るがす大事件になり、伊丹らは上から
の圧力で事件を隠蔽する方向に話が進むのだが、納得のいかない
竜崎は上からの圧力には決して屈してはならないと伊丹を説得に
当る。だが、警察という上意下達が徹底された組織においては命に
背くことなど出来るはずもないとする伊丹はその狭間で苦しみ
続けている。
こうした中でも竜崎は弱い感情に流されない強烈な意志で隠蔽を
阻止しようとする。この姿は変人を通りこして感動的でもある。
隠蔽したところで、どこからか情報は漏れる。そうした時により
一層大きな痛手を食うことは明らかであるとし、事実を早い段階で
公表するのが最も、被害が少なくて済むとする英断をする。
家庭でも息子が薬物を使用しその対応で悩み、結局自首をするしか
ないと結論を出したのだが、その事もあって竜崎は今回の事件も
同様な結論を下す。隠蔽をする事は決して良い決断ではないが、
警察の威信を根底から揺るがし、世間の非難の大波を受け止めなければ
ならない結論を、自らが泥をかぶる覚悟で出したあたりは、正直
物語と言えども出来すぎかなとの感もあるが、それを読者に納得
させるだけの竜崎の描写に、作者の力量の深さと大きさを感じる。
昨今、あってはならない立場の人間の不祥事が相次ぎ、国民の信頼は
失墜した感が充満しており、綺麗事を並べたところで結局は得をした
奴が勝ちだという徳に対する価値観が低下してきているが、この物語
はそうした価値観に正面から立ち向かう官僚という立場の男を見事に
描写している。
官僚となって出世をする事が大切だと物語の中でも主張するのだが、
それは個人としての欲得ではなく、社会に貢献する為に出来る事の
幅がひろがるという視点で捉えている。そしてそれが官僚である者の
当たり前の姿勢だと。
伊丹が迷い、自決をも考えていた時、竜崎が諭し命を救った
時の伊丹と竜崎の会話が印象的。
「知ってるか?おまえは俺達がやるべきことを必ず役割とか役目と言う。
決して仕事とは言わないんだ」
「そうかな・・・」
「少なくとも俺はそう認識している。お前にとって警察の仕事はただの
仕事じゃないんだ。きっと天に与えられた役割か何かだと思っている
んだろう」
「そんな大げさなもんじゃないさ。ただ、金を稼ぐための手段ではない
ことは確かだ。大切な使命を帯びている。官僚ってのはそういうものだ
ろう」
仕事というと何となく、金が絡んだ損得勘定の上に成り立つ労働という
印象を持つ。役目や役割という言葉が自分の行動を左右しているとなると
何故か、欲得を越えたものを感じる。
大きな特権を与えられるだけの仕事を、役割を果たして欲しい。
大きな意味を持つ激務をそつなくこなせるのは優秀な一部の人間だろう。
こうした者が個人の欲得で行動すれば多くの者の行く道に暗い影が落ちる。
綺麗毎だけでは済まない現実の中で、選ばれし者の自覚を大切にして
頂きたいなと感じます。
また、息子の不祥事でも自首をさせるのだが、妻の一言が心地良い。
無能な父親にしては良い仕事をしたと。
決して道を踏み外してはいけないことを教えたと。
家庭を妻にまかせきりにしており、子供の事もよくわかっていなかったが、
一番大切な事を教えた。子供に媚を売ることなど決してしない
が、やらなければならない大事な事は決しておろそかにしない。
忘れてはいけない事であり、忘れている親も多い中では当たり前の事は
あるが胸に響く会話であった。
一見、堅物で変人のようにも見える主人公竜崎だが、その底流には人とし
て失くしてはならないものをしっかりと持っており、それ故に苦境に立た
されるとしても、そこからは逃げない強さを持っているが、
一人の男として戸惑いや悩みも一通り持っている辺りにはほっとさせられ
たりもする。だが決して人前では弱さを見せない辺りにはハードボイルド
的な描写の匂いを感じます。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。